免税事業者がインボイス発行事業者となる場合に生じる税負担や事務負担への激減緩和措置として、小規模事業者に対する負担軽減措置が講じられます。
具体的には、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者として課税事業者となる場合の税負担・事務負担の軽減を図るために、インボイス制度への移行から3年間、当該事業者の納税額を売上税額の2割とすることができる措置となります。当該措置の適用対象期間や対象となる事業者の範囲等は、次の通りです。
①適用対象期間
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が適用対象期間となります。そのため、免税事業者である個人事業者が令和5年分(R5/10-R5/12分のみ)の申告から令和8年分の申告までの計4回の申告が適用対象となります。また、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日に登録した場合には、令和6年3月決算分(R5/10-R6/3分のみ)から令和9年3月決算分までの計4回の申告が適用対象となります。
②適用対象者
適用対象者はインボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になったものであり、具体的には、
・免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受け、登録日から課税事業者となる者
・課税事業者選択届出書を提出し、登録を受けてインボイス発行事業者となるもの<留意点1>
が対象となります。
従って、インボイス発行事業者の登録を受けていない場合には、本特例の対象とはなりません。また、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合、資本金1,000万円以上の新設法人である場合、調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った場合等、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税制度の提供を受けないこととなる場合や課税期間を1か月または3か月に短縮する特例の適用を受ける場合についても、本特例の対象とはなりません。
<留意点1>課税事業者選択届出書を提出して登録を受ける場合の留意点
課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合も、本特例の適用が認められますが、令和5年10月1日前から課税事業者選択書を提出していることにより、引き続き事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる同日の属する課税期間については本特例の適用は受けられないこととなります。
例えば、免税事業者である個人事業者が、令和4年12月に課税事業者選択届出書と登録申請書を提出し、令和5年1月1日から12月末の課税期間について納税義務が生じる場合における当該課税期間については本特例が適用できません。
こうした措置がとられるのは、インボイス制度の開始の前の期間も含めて特例を適用できる、あるいは一つの課税期間が10月1日を境に分割され、同日以後のみ特例を適用できるということになると、制度趣旨・目的に沿わないこととなり制度が複雑化することとなるからです。
その上で、本特例内容を予見できず、事前に課税事業者選択届出書を提出して令和5年10月1日の属する課税期間から課税事業者となり登録を受けようとする事業者の救済を図るため、こうした者が当該課税期間中(令和5年12月末まで)に課税事業者不適用届出書を提出した場合には、当該課税期間からその課税事業者選択届出書の効力を失効できる措置が講じられます。
本手続きにより、令和5年1月から9月分の納税義務が改めて免除され、インボイス発行事業者として登録した日から12月31日までの期間について納税義務が生じ、その部分について本特例を適用することが可能となります。
③納税額の計算方法
本特例は前述の通り、売上税額の2割を納税額とすることで税負担の軽減を図るものですが、具体的には簡易課税制度における計算と同様
(売上税額)-(売上税額×80%)=(納税額)※売上税額の2割
と計算することになります。そのため申告書の作成手順はこれまでと大きく変わることはなく、新しい計算方式が用いられるものではありません。なお、簡易課税制度と異なり、一律に80%の税額控除を行うことから、簡易課税制度で求められる各業種に応じた売上・収入の区分が不要となり、適用税率毎の売上税額を把握するだけで申告書の作成が可能となるため、簡易課税制度と比較しても更なる事務負担の軽減が図られることとなります。
④事前の届出は不要、2年縛りもなし
本特例の適用を受けようとする場合には、確定申告書に設けられる記載欄に適用を受ける旨を付記することとなります。すなわち、簡易課税制度の適用を受ける場合には、事前に届出が必要となりますが、本特例は事前届出は不要であり、また、2年間の継続提供要件(いわゆる2年縛り)もありません。
⑤簡易課税制度の届出の特例
先述の通り、本特例はインボイス制度への移行に伴いインボイス発行事業者となる者の消費税に係る事務の定着を図るため、3年経過措置として講じられるものですが、その期間経過後もスムーズに制度に適用できるよう、簡易課税制度の届出についても特例を設けることとされています。
具体的には、本特例の提供を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税制度の適用届出書を提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度を提供できることとなります。
たとえば、個人事業者が令和8年分申告について本特例を提供した場合、その翌課税期間中(令和9年12月末まで)に簡易課税制度の提供届出書を提出すれば、令和9年分の申告から簡易課税制度を適用できることとなります。
⑥その他
Q1:一度、2割特例を選択した場合、その後の適用対象期間は継続適用となりますか?
A1:消費税の申告を行う度に2割特例の適用を受けるかどうかの選択が可能です。ただし、申告する課税期間が2割特例の適用対象となるか否かの確認が必要となります。例えば、令和8年分の申告について、令和6年(基準期間)における課税売上高が1,000万円を超える場合には、2割特例は適用できないこととなります。
Q2:免税事業者ですが、登録申請書とともに簡易課税制度選択届出書も提出しました。この場合、2割特例は適用できないのでしょうか。
A2:2割特例は、本則課税と簡易課税のいずれを選択している場合でも適用が可能です。そのため、簡易課税制度の提供を受けるための届出書を提出していたとしても、申告の際に2割特例を選択することは可能です(簡易課税制度選択届出書を取り下げる必要はありません)
Q3:免税事業者である個人事業者です。登録申請書(R5/10/1登録)と共に簡易課税制度選択届出書を提出しているところ、申告時に2割特例と本則課税を選択適用できるようにしたいのですが、どのような手続きをすればよいでしょうか。
A3:簡易課税制度選択届出書は、その届出書の提出可能期限までは取り下げが可能であると取り扱われています。この点、免税事業者が登録申請を行った場合には、登録を受けた日から課税事業者となることができる経過措置が設けられており、この経過措置を受ける場合、登録開始日を含む課税期間中に簡易課税制度選択届出書を提出することにより、当該課税期間から簡易課税制度を適用することができるとされています。従って、ご質問の場合、簡易課税選択届出書は令和5年12月末日まで提出可能となるため、同日までに取り下げ書を提出することにより、その届出を取り下げることが可能となります。
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